metaphoric "initiative sense plans"アルバム創作ノート

今回のアルバム制作は、2010年6月(楽曲のデータファイル作成日参照)から始まりました。前作「confirmed lucky air」のプレス盤がリリースされたのが2010年の8月でしたから、その2ヶ月前にはすでに作業を開始していたことになります。
この頃から前作を編集した佐々木氏がメタフォリックのセッションレコーディングからさらに視野を広げ、他の演奏家の即興演奏を録音し始めたこと、前作の出来映えに僕がかなりの感銘を受け、それに続く作品を次の年にもう1枚くらいリリースしたい衝動に駆られていたこと、この2つのことが今回のアルバムを作り始めるきっかけになったと言えます(その衝動のせいか、全体の9割は2010年のうちに出来上がっていた)。
 
今回は全面的に僕がプロデュースをするということで、いくつか決めごとを設けて制作を進行させることにしました。
1つ目は、素材は全てソロで即興演奏してもらう(僕と佐々木氏を含め、7名のミュージシャンが参加/録音は全て佐々木氏による)。2つ目は、その演奏に合わせてさらに演奏を重ねることをしない(オーバーダビングをしない)。3つ目は、シーケンサーを使ったプログラミング(打ち込み)を用いない(ただしドラムマシンによるリズムの付加は除外)。そして4つ目は、素材を細かく(秒単位で)サンプリングしてループを組むことをせず、なるべく演奏全体を使って曲を作り上げる。
以上のような制限を設け、昨今の制作環境(編集にはプロツールズを使用)の利便性や既存の作曲プロセスに囚われないことで、偶発的な響きや独自のミニマル性の誘発を促すことを意識しながら制作していきました。
たとえば、まったく別の場所で別の時間に別の人間が演奏した素材をミックスしたり、幾重にもプラグインエフェクトを通して様々な音響効果を試したり(時には殆ど演奏の原型がわからないくらい)しながらも、その演奏の構成やコード感を活かした曲になるよう心掛けました。
そして素材を加工・編集した時点で更にリズム感を強調させたい場合はドラムマシン(プロツールズに付属しているBoomというプラグインソフト)を使って2小節のドラムループを付加しました。
 
このような制作過程を経たことにより、全体的に90年代のアシッド(またはアンビエント)ハウスやミニマルダブのような特長を持つ曲が多いアルバムになりましたが、サンプリングによるループの作成や打ち込みを制限したため、そこに作為的なベースラインやシーケンスフレーズは存在しません。その代わりにイコライジングやエフェクトによる一定の波長効果による独特な低域やフレーズを作ることが出来ました。
 
おそらくこのようなサウンドは、制限を設けたことだけで生まれたのではありません。
たとえばエフェクト効果による偶発的フレーズを直感的にスムーズに作り出せたのは様々なミックスやエフェクト効果を迅速に試行出来るDAW環境があったからだと言えます。
僕が今回、自身に課した制限のいくつかは、高価な機材も買えずに身の回りにあったテープデッキや安価な楽器で何とかしてその当時聴いていたような音を作れないかと試行錯誤していたあの頃の創意を思い起こさせる為のカンフル剤のような物だったのかもしれません。
つまりは自分が一番いろいろなものに影響を受けた頃(僕の場合は90年代)の創作意欲をその頃には無かった発想、概念やツールを介して作品にぶつけてみることで、自分の中の時代性や方向性を交錯させた総括的な作品を作りたかったということなのです。
 
ところで、前作を知っている方が今回のアルバムを聴いたら、とても同じバンドの作品とは思えないかもしれません。ですが私は、この2枚のアルバムをつがいのようなものだと思っています。ですから前作を聴いている方には今作を合わせて聴いて欲しいし、今作を気に入ってくれたら前作も聴いて欲しいと思います。
毛色の違う2作ですが、それぞれがソロ名義でつくる作品には無い、メタフォリック的な思考が幾つか共通して顕われているように思います。
両者とも素材は即興演奏をベースに、DAWソフト(佐々木氏は主にAbletonLiveを使用)を使って編集(細かく言うと、佐々木氏は一度デジタル編集したものをアナログミキサーを介して録音し直したりしている/僕は今回フルデジタル編集)しているのも、共通項の一つと言えます。
同じバンドでもコンセプトやメンバーの携わり方で様々な作品を提示できるバンド(というよりはプロジェクトと言った方がいいかもしれない)が僕の理想でもあるのです。
 
この2作でメタフォリックの軸のようなものが出来たような気がします。この軸を起点にさらなる発展を目指し、また新たな作品を生み出せるよう精進してまいります。
 
最後に、今回作品に快く演奏素材を提供してくれたゲストミュージシャンの方々に厚く御礼申し上げます。


 metaphoric 庭野孝之

        • -

→metaphoric "initiative sense plans"詳細